登壇者

鹿児島大学大学院 理工学研究科准教授
高橋 哲朗 Tetsuro Takahashi
鹿児島大学大学院理工学研究科准教授。2005年奈良先端科学技術大学院大学博士後期課程修了、博士(工学)。㈱富士通研究所入社、自然言語処理およびデータ分析の研究に従事。2011年〜2012年および2014年〜2015年マサチューセッツ工科大学にてデジタル技術を活用した教育技術の研究。2024年から現職。

株式会社ばんそう 代表取締役CEO
松田 克信 Katsunobu Matsuda
今後のばんそうAIの開発
現在、高橋先生と株式会社ばんそうは「ばんそうAI」の共同開発を進めています。松田がビジネスサイドからの視点で「こういうものがあればいい」というアイデアを出し、高橋先生が自然言語処理の研究者としてその実現に貢献しています。
高橋先生は、現在のLLMが非常に便利な道具である一方で、「聞いたら答えてくれる」ものの、「聞かないと何も答えない」という特性に、自然言語処理の研究者としてもどかしさを感じています。これを「検索の延長線上にとどまっている」と表現し、LLMには「もっとできることがあるはずだ」と考えています。
松田も、コンサルティング業界の「ブラックボックス化」した知見をLLM AIを使って再現できる可能性に大きな魅力を感じています。
ばんそうAIでは、今のLLMにコンサルタントの知見を加え、聞かれなくても能動的に課題を見つけて提案したり、ビジネスをリードできるようなAIを目指しています。これは、本物のコンサルタントが、顧客が質問しなくてもビジネスをリードし、伴走して支援する姿と重なります。
松田自身もコンサルティング経験で「苦労した時代」があったからこそ、能動的に課題を見つけ、解決策を提示するコンサルティングの奥深さを知っており、これを「今までの検索エンジンの延長線上ではない、まさに相談相手」としてのLLM AIが実現できると期待しています。

高橋准教授のAI開発エピソード
高橋先生は、これまでの研究生活で「研究として行ったことをいかに社会に出すか」という点に課題を感じてきました。
日本でWebブログが流行り始めた2005年頃。当時は Web上のブログ情報を収集・解析し、特定の飲料に対して消費者がどう感じているか(好き嫌いなど)を把握する技術を開発しました。これを「Webマーケティング」に活用できると考え、サービスとして提供しました。
記事の内容から感情を正確に読み取ることの難しさに加え、大規模な情報を収集するコストが非常に高かったため、サービスとして継続することが困難でした。Googleのようなデータ収集は、規模が小さくても非常に難しいと言えます。
Twitter(現X)が日本で普及し始めた2010年頃。Twitter(現X)のAPIを利用してデータを取得し、「花粉症のセンサー」を作る研究を行いました。ユーザーの「花粉症が辛い」といったツイートを集め、位置情報と合わせて分析することで、日本地図のどのエリアで花粉が辛いかを推定できることを示しました。
環境省が発表する実際の花粉飛散量とある程度相関があることが分かり、「人々のツイートが社会のセンサーとして機能しうる」ことを示唆しました。これにより、こたつを出す時期や焼き鳥を食べたいといった、一般的なセンサーでは測りにくい社会現象もツイートからセンシングできる可能性があることを示しました。
しかし、この研究はプロダクトには結びつかず、研究として完結しました。
これらの経験から、高橋先生は研究成果を社会に役立つプロダクトとして提供することの難しさを強く感じています。
そこで松田との会話の中で、高橋先生のこれまでの研究経験を踏まえ、将来のLLM活用の具体的なアイデアが生まれました。
松田自身のコンサルティング経験から、「アイスクリームは一定の気温を超えると売れなくなり、氷菓が売れ始める」という知見を共有しました。
これを受け、高橋先生のこれまでの研究(ツイート解析)と結びつけ、「暑かったのでアイスを食べた」「かき氷屋に行った」といったツイートと気温データを分析することで、数日後のアイスクリームや氷菓の売上を予測し、コンビニやスーパーの在庫管理に活用できるのではないかというアイデアが出ました。
これは、人々の行動をセンサーで測ることの難しさや、流行が伝播する特性を分析・予測することで、サプライチェーンをより効率的に動かすことに貢献できる可能性があると示唆しています。松田は、過去にビジネス化が難しかった研究も、LLMの活用によって「今だったら繋がる」可能性があると感じています。

高橋准教授のこれからの夢
高橋先生は、これまでの研究で社会へのプロダクト化の難しさを経験してきた中で、多くの人が日常的に使い、それがないと困るような製品を自然言語処理の力で作り、世の中に提供したいという夢を持っています。
具体的には、「かな漢字変換」のように、人々の生活に深く根ざし、もはや当たり前になっているようなアプリケーションをNLP分野で生み出すことを目指しています。自然言語処理の分野で、実際に社会に大きく貢献してきたものが、かな漢字変換、インターネット検索、そして最近のLLMなど、意外と少ないという認識があるため、そういった社会貢献性の高いプロダクトを生み出すことが高橋先生の大きな目標です。



