登壇者

明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 専任教授
岡 俊子 Toshiko Oka
1986年一橋大学卒業 1992年米国ペンシルベニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)。1986年に等松トウシュロスコンサルティングに入社後グループ内異動等を経て、アビームM&Aコンサルティング代表取締役社長CEO。経済産業省産業構造審議会委員などを歴任。現在は、ENEOSホールディングス、日立建機、アース製薬、ハピネット、JICなどの社外取締役を勤める。 2004年から明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科兼任講師。2021年から現職。著書:『資本コスト入門』(中央経済社)、『子会社売却の意思決定』(中央経済社)、『子会社売却の実務』(中央経済社)、『M&Aにおける第三者委員会の理論と実務』(商事法務)など多数。

株式会社ばんそう 代表取締役CEO
松田 克信 Katsunobu Matsuda
ガバナンスへの意識を促す方法
現代の企業経営では、重要な課題がいくつかありますが、まず、事前のガバナンス強化とリスク管理の重要性が増していることが挙げられます。それに対する考え方として、事前に問題点を洗い出し、「プレイブック」を作成することが有効です。人々はガバナンスへの備えが必要だと認識しつつも、負担を感じて取り組みが遅れがちなため、事前に問題が明確になることで「やらざるを得ない」状況を作り出す効果があります。人間は自分で言ったことや考えたことしか実行しないため、自分で書き出して「やはり必要だ」と認識することが重要だと言われています。誰かに言われるよりも、自分で認識を深めるための仕掛けとして、プレイブックの作成は一つの方法となるでしょう。

現代に求められる中期経営計画
次に、事業計画、特に中期経営計画(中経)のあり方についてですが、多くの企業では、中経が銀行提出用など形式的なものになりがちです。本来、中経はIR(投資家向け広報)の重要なツールとして、短期・中長期的な事業内容や経営の重点を提示し、投資家と対話する役割を果たすべきですが、この役割が十分に意識されていない現状が指摘されています。
中経の期間が3年や4年と短い場合、特に「時代の変わり目」にある現在では、現状の延長線上での計画に留まりやすくなります。しかし、投資家はこうした延長線上の計画を求めていません。彼らは「時代が変わる中でどうなりたいのか」「業界の中でどのような役割を担うことを目指しているのか」といった、より長期的な視点での戦略を知りたいと考えているのです。このギャップを埋めるため、エネルギー企業が実践しているように、2040年、2045年、2050年といった長期目標を見据え、そこから逆算して中経を策定する「バックキャストの中経」の考え方が、他の業界でも重要になっています。プライム市場の大企業の中には、競争の激しい環境にある企業を中心に、「中経をやっていても仕方がないのではないか」と感じ始め、中経の廃止を検討し始める動きも見られます。
一方で、地方やスタンダード市場の企業では、現状維持の計画になりやすく、「中経も与えられたように作れば良い」といった受動的な姿勢が見られる傾向があります。しかし、こうした企業の中には「オンリーワンの技術」を持っているところも多く、業界再編の動きが進む中で、特定のピースを求める企業から買収のターゲットとなる可能性を秘めていると具体的に示唆されています。そのため、中経を策定する際には、「自分がいる業界全体の中で、誰がプレイヤーとして存在し、自分たちがその中でどのような役割を担っているのか」、そして「もし業界再編が起きた場合、誰が自分たちを評価し、買いたいと考えるか」といった自社の立ち位置の認識を明確に持つことが非常に重要であり、これは前述のプレイブック作成にも繋がる考え方です。
バックキャストのような戦略的な議論を社内だけで行う場合、議論が現状の延長線上に留まりがちです。特にテクノロジーの進化(例えばAIのようなもの)といった分野では、社内の「常識の中だけ」で議論しやすいため、外部の視点を取り入れた議論が非常に重要だと指摘されています。コンサルタントが果たす役割は、企業が日々接している「接点」だけでなく、業界全体の大きな動きを俯瞰し、隠れたニーズや可能性を見出すことにあると具体的に述べられています。日本企業はこれまで自主的な経営を重視してきましたが、人材不足なども含め、今後は外部の力をうまく活用していくことが大きなポイントになるでしょう。

親会社と子会社の関わり方
グループ会社経営における課題についてですが、特に本社と子会社の関係では、「本社主義」や「親会社風」の姿勢が見られ、本社が子会社に対して「マウンティング」する傾向があります。親会社の本来の機能は、ポートフォリオマネジメント、キャピタルアロケーション、投資家とのコミュニケーションの3つであり、事業価値を高めるのは事業会社(子会社)の役割です。親会社が子会社の事業内容を深く理解しないまま助言を行うと、「的外れなこと」となり、これが子会社側からすれば「普段はあんなことを言っているのに」と関係性を阻害し、疎遠になる原因となります。
M&A後の企業統合(PMI)についても課題が提起されています。M&Aでグループ入りした企業に対するガバナンスの効かせ方として、親会社が「強いコミットメントを持って共に事業を進める」のか、あるいは「ある程度の自由度を与えつつ結果で判断し、必要に応じてサポートする」のか、明確な方針を定めることが重要です。しかし、実際には中途半端に両方を抑えようとする企業が多く、これが「日本企業がM&Aを行ってもなかなか成功しない」と言われる大きな要因になっています。

グループ経営の注意点
日本の企業グループは、歴史的に親会社から機能や事業を分社化したものが多く、比較的「DNAが共有されている」ため、グループ経営に関する明文化されたルールが不足している現状があります。このため、外部からM&Aによって異なる文化や行動規範を持つ企業がグループ入りした場合、認識のズレが生じ、誰も教えてくれない、読むものもないという状況で、親会社側も「伝えなければならない」という意識がないため、このズレが最初に生じることになります。その後、子会社の業績が悪化するなどして、ようやく「2、3年後」になってから話し合いが始まり、歩み寄りが進むケースが多くなります。
したがって、企業は「自分たちがどうグループ経営をしたいのか」という方針を一度明文化することを強く推奨します。ただし、この明文化された文書と、特にM&Aで加わった会社が「本当に知りたいこと」(例えば、「KPIに関してどこまで介入されるのか」といった具体的な点)との間に「ギャップがある」場合があるため、そのギャップを埋める努力も必要になります。

<Part3につづく>

