登壇者

キエングローバル株式会社 代表取締役
福谷 尚久 Naohisa Fukutani
30年を超える投資銀行業務経歴を通じて、米国ヘッジファンドのCornwall Capitalや旭化成、オリックス、センコー、住友商事、大和ハウス工業、東芝、日清紡、ブラザー、JAFCO等の上場企業のほか、中堅・中小企業の事業承継M&A案件を数多く手掛ける。

株式会社ばんそう 代表取締役CEO
松田 克信 Katsunobu Matsuda
新卒で東京三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行、法人融資、不良債権対応、船舶ファイナンスなどの業務を経験。その後、Deloitte Tohmatsu Consulting、Roland Berger、PwC Advisory、MURCなどを経て、ばんそうを創業。経営戦略、事業戦略、資本戦略、M&A、経営管理などを軸に、幅広い業種・規模のクライアントに寄り添ったコンサルティングを実施。PwC Advisoryでは、製造業セクターの戦略領域担当パートナー(役員)として、数多くのクライアントマネジメントやプロジェクトリードを行う。 2021年に株式会社ばんそうを創業し、代表取締役CEOに就任。
略歴
これまで30数年間にわたり、一貫してM&Aのファイナンシャルアドバイザーという仕事に従事してきました。 キャリアのスタートは、現在で言うところの「メガバンク」でした。その後、銀行から証券会社へ出向し、より専門的な金融実務を経験しました。
その後、大きな転機となったのが、独立系投資銀行(ブティック・インベストメント・バンク)の設立に携わったことです。 具体的には、2000年代半ば、日本でも敵対的買収の動きが出始めた頃、「GCA」という会社におりました。当時は日本における敵対的買収防衛の最前線のような場所であり、そこで多くの防衛案件を扱ってきました。
現在は、前職の会社で「シニアアドバイザー」としての籍を残しつつ、自分自身の会社も設立しています。自分の会社では、企業の大小や業種を問わず、多種多様なM&A案件のアドバイザリー業務に日々携わっているというのがバックグラウンドです。

資本戦略のポイント
2000年代半ば、日本に敵対的買収の波が押し寄せた当初から最前線で防衛に関わってきましたが、実はその「本質」は20年近く経った今もほとんど変わっていません。しかし、「対象」は変わりました。かつては大企業の問題でしたが、現在はスタンダード市場の上場企業や、時価総額がさほど大きくない中堅企業までもが、アクティビスト(物言う株主)の標的となり、資本政策や成長戦略に悩み、混乱している現状があります。
多くの中堅企業の経営者にとって最大の盲点は、「自分には関係ない」「一生に一度あるかないかの話だ」と思い込んでいることです。PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れているような企業は、いつターゲットになってもおかしくありません。「自分の会社でも起こり得る」と常に想定し、心のゆとりを持っておくことが最初の防御です。
アクティビストからアプローチがあった際、多くの企業は慌てふためき、相手の要求通りに「社長面談」を設定してしまいます。しかし、これは相手のペースに巻き込まれる典型的な失敗例です。会社として以下のような対応順序(ルール)を事前に決めておくべきです。
1. IR担当者が会い、用件を聞く。
2. 内容に応じてIR責任者が対応する。
3. 必要であれば取締役が出る。
4. 社長が出るのは最終段階のみ。
「社長に会いたい」というのは相手の勝手な都合であり、これに応じる必要はありません。毅然とした社内ルールを持つことが重要です。

一般的な株主とアクティビストの違い
「普通の株主」と「アクティビスト」の違いは明確です。普通の株主は経営陣や会社のファンであり、長期的な目線で応援してくれます。 対してアクティビストの本質は、一種の「鞘取り(アービトラージ)」です。割安な株を買い、経営陣に圧力をかけて株価を吊り上げ、高値で売り抜けることを目的としており、長期保有者にはなり得ません。
極端な例では、株主提案で自ら経営陣を送り込んでおきながら、株価が上がった瞬間に自分たちは株を売って利益を確定させ、送り込まれた経営陣がその後すぐに解任されるというケースすらあります。彼らにとって、会社はあくまで「儲ける機会」に過ぎないのです。

株主に対して注意するポイント
アクティビストは「大量保有報告書」の提出義務が生じる5%の手前(4.99%など)まで密かに買い進めるため、突然大株主として現れることがあります。これを防ぐための具体的な調査手法があります。
実質株主判明調査は信託銀行やIR会社を使い、名義上の株主の背後にいる実質的な支配者を定期的に調査します。
「ウルフパック(狼の群れ)」は警戒が必要です。 一見関係のない10人(10社)がそれぞれ3%ずつ持ち、ある時突然結託して「我々は合計30%持っている」と主張する手口です。これは非常に見抜きにくい戦術です。
半期や四半期ごとに株主名簿を確認する際、単に名前を見るだけでなく想像力を働かせる必要があります。見慣れないカタカナの名前など、海外ブローカー経由の名義には要注意です。「この名義の裏には誰がいるのか?」と常に疑いを持ってモニタリングする必要があります。

IR・SRの注意点と重要事項
多くの企業が行っているIR・SR活動は、「仕方なくやる」「攻撃されたから防衛的に自社株買いや増配をする」というリアクティブ(受動的)なものが目立ちます。 最近流行りのMBO(経営陣による買収)でさえ、アクティビストに株価を上げられた結果、彼らに退出してもらうためにオーナーやPEファンドの傘下に入るという、受動的な動機で行われるケースが見受けられます。
PBR1倍割れ(解散価値以下)という異常事態を放置せず、「果たして自分たちは上場している意味があるのか」を真剣に問い直すべきです。その上で、資本市場に向き合い、株価を上げる努力をする。あるいは、上場の意義がないなら退出する。その覚悟を決めて市場と対話することこそが、本来あるべきIR・SR活動なのです。

<Part2につづく>
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